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2026-03-30 00:00
破綻した「マルクス・レーニン主義」
加藤 成一
外交評論家(元弁護士)
カール・マルクスは主著「資本論」で「資本主義が発達すれば社会主義に移行する」という「資本主義崩壊論」を主張した。すなわち、資本主義が発達すると、資本の集積・集中が進み、機械化による資本の有機的構成が高度化して相対的過剰人口=産業予備軍(失業者)が増大する。その結果、労働者階級の貧困・抑圧による階級闘争が激化し、社会主義革命により資本主義が崩壊して社会主義に移行するというのである(マルクス「資本論」第1巻 向坂逸郎訳951~952頁岩波書店)。しかし、歴史上、欧米や日本など資本主義が発達した先進資本主義国から社会主義に移行した国は皆無である。反対に、帝政ロシア、中国、ベトナム、北朝鮮、キューバ、ラオス、カンボジアなど、資本主義が未発達な国に限って社会主義に移行している。これはなぜなのか。マルクス「資本論」及びこれを理論的基礎とする「マルクス・レーニン主義」(科学的社会主義)の最大の理論的矛盾であり破綻であるという他ない。
そのため、レーニンは「資本主義の不均等発展の法則」を提起し「資本論」を修正した。すなわち、資本主義社会では生産が無計画のため発展が不均等になり、帝国主義の鎖の輪の弱い後進資本主義国から社会主義に移行すると主張した(レーニン「帝国主義論」レーニン全集第22巻277頁大月書店。スターリン「スターリン全集」第1巻12頁大月書店)。しかし、レーニンのこの理論は、資本主義が未発達であり「資本論に反する革命」であったロシア革命をひたすら正当化するための便宜的理論に過ぎず、「生産力の発展が生産関係を決定する」(マルクス「経済学批判」14頁岩波書店)とのマルクス・レーニン主義の根本原則である「史的唯物論」と著しく矛盾し破綻しているという他ない。逆に言えば、ソ連崩壊は「史的唯物論」の正しさを証明しているのである。
発達した資本主義国において先進国革命が起こらない最大の原因は「資本主義が発達すれば労働者階級は窮乏化する」とのマルクスの「窮乏化法則」(資本論第1巻808~810頁)の破綻にある。すなわち、「窮乏化法則」に反して先進資本主義諸国の労働者階級の生活水準が向上したからである。非正規雇用や格差等の問題があるとしても、2025年の勤労者世帯の平均貯蓄額は1579万円(中央値885万円)であり(総務省)、名目賃金も年々上昇し、2025年の平均賃上率は5・52%である。さらに、2025年の完全失業率は2・5%(総務省)で完全雇用に近い。また、「階級闘争」の象徴とも言えるストライキ件数は2021年55件であり1970年代半ばの年間5000件以上に比べ激減している(厚労省)。これは労働者階級の生活水準の向上と、それに基づく「労使協調路線」の影響によると言える。のみならず、労働者階級においても、マイカー、マイホーム、各種電化製品が普及し、海外旅行を楽しむ労働者層も少なくない。そのうえ、生活保護や国民皆保険など各種社会保障制度も整備され、労働者階級を含む国民は「健康で文化的な最低限度の生活」(憲法25条)を概ね保障されていると言えよう。元日本共産党中央委員会幹部会員の評論家蔵原惟人もすでに1979年に「労働者自体も無一物の無産者という感じではない多数の層が成長し自家用車も持っている。このような変化に共産党としても対応する必要がある。」(蔵原惟人「蔵原惟人評論集」9巻187頁新日本出版社)と述べ、労働者階級に窮乏化の事実がないことを認めている。このような、労働者階級の生活水準の向上が社会主義革命を困難にしている最大の原因である。なぜなら、前記のとおり、マルクスによれば、資本によって搾取されている労働者階級の貧困化が社会主義革命の絶対的条件とされているからである。
先進国革命が困難な原因は、以上に述べた「経済的原因」のほかに、旧ソ連や中国など、社会主義国家における「プロレタリアート独裁」(共産党一党独裁)による思想・信条・集会・結社・言論・出版・表現の自由などの市民的自由や基本的人権の抑圧などの「政治的原因」がある。「プロレタリアート独裁」とは資本主義社会と共産主義社会の過渡期の国家がプロレタリアートの革命的独裁であり(マルクス「ゴーダ綱領批判」世界思想教養全集11巻139頁河出書房新社)、社会主義政権に対する一切の反革命を法律によらず暴力で粉砕する労働者階級の革命的権力であり、暴力のあるところ自由も民主主義もない」(レーニン「国家と革命」レーニン全集25巻499頁大月書店。レーニン「プロレタリア革命と背教者カウツキー」レーニン全集28巻249頁)と規定される。不破哲三も「社会主義日本ではプロレタリアート独裁が樹立されなければならない。革命が平和的か暴力的かは敵に出方による。」(不破哲三「人民的議会主義」241~243頁新日本出版社)と述べている。「プロレタリアート独裁」は実質的には共産党一党独裁であり、日本国憲法が保障する自由や民主主義と矛盾することは明らかである。このような「プロレタリアート独裁」に対する国民の恐怖心が社会主義革命を困難にしているのである。
さらに、先進国革命が困難な原因として、国際通貨基金やガットなど先進資本主義諸国間の国際協調による恐慌や経済的危機回避などの「国際的原因」がある。先進国革命が起こらない「理論的原因」はシュンペーターが唱えた「創造的破壊」による資本主義の創造力と復元力にある(シュンペーター「資本主義・社会主義・民主主義」上巻150~151頁東洋経済新報社)。なぜなら、不況や恐慌は古い産業を淘汰し、人的物的資源を再配分し、古い産業に代わって新しい産業を成長させ、構造改革を促進するからである。近代経済学者の斎藤精一郎は「混合経済体制にしろ修正資本主義にしろ、現在の先進資本主義を見れば、利潤率は低下傾向にあるとは言えないし、労働者の窮乏化も生じていない。資本主義には強い柔軟性がある。」(斎藤精一郎他「マルクスの誤算」59頁文芸春秋社)と述べ、資本主義の強靭な創造力と復元力を認めている。
マルクス「資本論」は19世紀半ばのイギリス資本主義が対象であり、マルクスはそれ以後の資本主義の変貌を知らない。したがって、「窮乏化法則」のような19世紀的制約の命題は現代において妥当しないのは当然である(伊藤誠他「マルクスの逆襲」4~7頁日本評論社)。「窮乏化法則」については、19世紀初頭の英国における労働者階級による「機械破壊運動」(ラダイツ運動)の影響を受けたマルクスが、機械化の促進は労働者を不要にし、失業と貧困をもたらすと短絡して考えたと推察される。20世紀になると資本主義は大きく変貌した。自由放任ではなく国家の経済への介入による「国家独占資本主義」(大内力「国家独占資本主義」262頁東京大学出版会)が出現し、国家が国民の生活を保障する「福祉国家」(岡沢憲芙「スウエーデンの挑戦」76頁岩波新書」)が誕生した。さらに、21世紀になると、人工知能・情報通信・金融工学・宇宙開発・ロボット・先端医療・ハイテク産業など、マルクスが予想もしなかった先端産業や先端技術が次々に誕生している。まさに、21世紀の現代資本主義はシュンペーターの「創造的破壊」の世界そのものである。そうだとすれば、21世紀の現代資本主義においては、マルクスが主張した「資本主義崩壊論」「窮乏化法則」「労働価値説」「階級闘争」「暴力革命」「プロレタリアート独裁」など、19世紀半ばの資本主義を対象としたマルクス「資本論」の諸概念にはもはや正当性も妥当性もなく理論的に破綻しており、マルクス「資本論」を理論的基礎とする「マルクス・レーニン主義」(科学的社会主義)も、同じく理論的に破綻しているという他ない。日本でも1970年代には「マルクス・レーニン主義」の革命理論を信じた多くの学生や若者による反体制運動があったが、失敗に終わっている。これは「暴力革命」や「プロレタリアート独裁」が発達した先進資本主義国日本の実態と大きく乖離していたからである。ここにもマルクス「資本論」を理論的基礎とする「マルクス・レーニン主義」の理論的破綻が認められる。したがって、マルクス「資本論」に基づく上記諸概念についても科学的に検証し、かつ欧米・日本など21世紀の高度民主主義社会に適合し、マルクスを超えた「新しい革命理論」の構築がなければ、マルクス「資本論」を理論的基礎とする「マルクス・レーニン主義」(科学的社会主義)は衰退への道を辿ることになる。欧州共産党や日本共産党の衰退がこのことを示している。
以上により、科学的検証を必要とする「マルクス・レーニン主義」の諸概念は以下のとおりである。(1)「資本主義崩壊論」(社会主義移行論)については、歴史的必然性・蓋然性の有無に関する検証(2)「窮乏化法則」については、21世紀の現代資本主義社会における有効性に関する検証(3)「労働価値説」については、21世紀の人工知能時代における有効性・妥当性に関する検証(4)「階級闘争」については、情報産業分野など膨大な中間層の出現による労資対立構造の変化に関する検証(5)「暴力革命」については、21世紀の高度民主主義社会における相当性・妥当性に関する検証(6)「プロレタリアート独裁」については、上記(5)と同様の相当性・妥当性に関する検証。
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